第9回日本ラブストーリー大賞 1次選考あと一歩の作品(7)

『恋を食らわば皿まで』/佐良 茉由子 

 あらすじ&コメント

奥の深い陶芸の世界を舞台にした不器用な恋愛を、軽快な文章でテンポよく読ませてくれます。読みながら思わず「いい仕事してますねえ」と独り言。まず出だしがいいですね。美しいエメラルドグリーンのコーヒーカップ、西洋のものかと思いきや九谷焼、作者は「三代目 後藤勘右衛門」。このカップにほれた誠二が作者を訪ねて金沢の工房まで行くと、出てきたのはキリッとした二十代女子・秞という意外性。誠二は工房に弟子入りして苦労を重ねるのですが、この内弟子修業の描写が全然重くなくて、むしろ微笑ましい。誠二の悪戦苦闘を読まされているうちに読者に九谷焼の情報が提供されるという仕掛けで無駄がありませんね。そして、秞と誠二を取り巻く人間関係の謎を小出しにして読者をひきつける手際もお見事。

ただ、残念なことに主役の二人の存在感が薄い。とぼけた味わいに癒される陶工・村瀬老人、九谷焼で町おこしを企てる野心的な美咲、秞の初恋の相手で陶芸家としてはライバルである香坂、秞の父で娘とは違う道を歩む大陶芸家・加藤赤水、ひと癖もふた癖もある脇役たちの方が個性的で、そちらに目がいってしまいます。そのために秞と誠二が和解するクライマックスが、その場面自体は上手く書けているのに心に響かない。惜しい、の一言です。文章表現力といい、ストーリーを構成する力といい、優れたものを秘めていると思いますので、大切に伸ばしていってください。

あと一歩の作品一覧に戻る

一次通過作品一覧に戻る